廃掃法改正と廃PV問題に見る「資源統治」の転換

廃掃法改正と廃PV問題に見る「資源統治」の転換
―― 廃棄物と資源のあいだにあるものをどう扱うか ――
近年の廃棄物処理制度の改正議論、とりわけ今回提示されたスクラップヤード規制および災害廃棄物対応の強化は、表面的には環境保全措置の強化、あるいは不適正事業者対策として説明されることが多い。しかし、その流れを過去の廃掃法の運用、さらには現在顕在化しつつある廃太陽光パネル(以下、廃PV)の問題と重ねてみると、そこにはもう少し異なる、より構造的な意図が読み取れる。すなわちそれは、「廃棄物管理」から「資源統治」への移行であり、そのための制度的な再編である。
廃掃法はこれまで、「廃棄物」と「有価物」という二分法の上に成り立ってきた。不要物として処理すべきものは厳格に規制し、一方で価値を持つものは市場に委ねる。この整理は一見明快であるが、現実の資源循環の現場においては、この二分法が必ずしも機能してこなかったことは周知の通りである。同一の物理的対象が、ある場面では廃棄物として扱われ、別の場面では有価物として流通する。この往復の中に、規制の空白が生まれ、そこに不適正処理や海外流出が入り込んできた。
しかし、ここでより重要なのは、この問題を単なる「境界の曖昧さ」として片付けてしまうことの危うさである。むしろ見えてきているのは、廃棄物と資源のあいだに、そもそも明確には分類できない領域が存在しているという事実である。すなわち、廃棄物として処理するには量が大きすぎ、資源として流通させるには価値が十分でない、そうした中間的な存在である。
廃PVはその典型である。大量に発生し、一定の資源性を持ちながらも、回収・分解・再資源化のコストが市場価格と一致しない。このような対象は、市場に任せれば回収されず、廃棄物として扱えば処理能力を圧迫する。結果として、放置、低質処理、海外流出といった形で問題が顕在化する。この状況は、これまでの制度が前提としてきた「廃棄物か資源か」という二分法が、現実に対して十分ではなくなっていることを示している。
この「廃棄物でも資源でもないもの」をここでは仮に第三層と呼ぶならば、今回の廃掃法改正および廃PV法案は、この第三層を制度の中に取り込もうとする試みであると理解できる。スクラップヤード規制は、これまで有価物として自由に流通してきた領域に対して管理を導入し、輸出確認制度は資源の流出を統制する。また、災害廃棄物処理体制の強化は、大量発生物を迅速に処理するためのインフラを平時から整備するものである。これらはいずれも個別には環境対策に見えるが、全体としては、無秩序な資源の流れを「管理された流れ」へと再編成する動きである。
このような視点に立つと、今回の制度改正は単なる規制強化ではなく、「市場の成立条件の再設計」であると言える。すなわち、自然発生的には成立しない資源循環の領域に対して、制度を通じて一定の流れを与え、その上に市場を形成しようとするものである。この意味で、許認可は単なる排除の装置ではなく、信頼と流通の基盤として再定義される必要がある。
しかし、この第三層を制度の中に取り込むという試みは、同時にいくつかの重要な問題を提起する。これらを曖昧にしたまま制度を進めると、かえって市場が歪み、資源循環の持続性が損なわれる可能性がある。したがって、今後の議論においては、以下の点を明確に整理していく必要がある。
すなわち、サーキュラーエコノミーの第三層を制度の中に取り込むにあたり、論点は多岐にわたるが、実務的に意味を持つものとしては、以下の五点に収斂すると考えられる。
① 許認可は「設備基準」か「機能基準」か
最も重要な論点である。従来の廃掃法は、施設・設備・人員体制といった「持ち物」によって許可を与える、いわば設備基準型であった。これは安全性の担保には有効であるが、一方で技術やビジネスモデルの多様性を制約し、結果として大規模事業者に有利に働く傾向がある。また、他方で事業能力のない経済主体が整備された設備を買い取ってグリーンウォッシュ的に参入し撹乱する危険性もある。
廃PVのような第三層においては、重要なのは「どの設備を持っているか」ではなく、「最終的にどれだけ適正に循環できたか」である。すなわち、
- 最終処分量をどれだけ減らせたか
- 再資源化がどこまで実現できているか
- トレーサビリティが確保されているか
といった機能・成果に基づく評価(機能基準)へと移行する必要がある。この転換ができるかどうかが、制度が市場を育てるか、既得権を固定するか、さらには実体のない既得権売却ビジネスに終わらせるのかの分岐点になる。
② 第三層を制度上どう定義するか
廃棄物でも資源でもない領域、すなわち第三層をどのように制度上位置付けるかも決定的である。従来の二分法(廃棄物/有価物)のままでは、この領域は必ず制度の外に漏れる。
したがって、
- 一定の条件下で「管理対象資源」として扱うのか
- 廃棄物規制の中に特例として取り込むのか
- 別のカテゴリーとして明示するのか
といった制度上の整理が必要になる。この定義が曖昧なままでは、規制逃れと過剰規制が同時に発生することになる。
③ 許認可を「排除」から「信頼基盤」へどう転換するか
現場における許認可の理解は、不法業者の排除に重きが置かれているが、それ自体は正しい。しかし第三層においては、それだけでは市場が成立しない。
重要なのは、許認可を
- 排除のための制度
から - 信頼できる取引の前提条件
へと位置付け直すことである。すなわち、
- 誰が適正に処理できるか
- どの程度の品質が担保されているか
- 流通が追跡可能か
が明確になることで、初めて価格や契約が成立する。この転換がなければ、制度は単なる防御装置にとどまる。
④ 国内循環と国際流通をどう調整するか
スクラップヤード規制における輸出確認制度が示すように、資源を国内にとどめる方向が強まっている。しかし、資源市場は本質的に国際的であり、過度な囲い込みは市場機能を損なう可能性がある。
したがって、
- 国内で処理すべきもの
- 国際的に流通させるべきもの
をどの基準で切り分けるかが重要になる。この調整を誤ると、国内産業の空洞化か、あるいは非効率な過剰保護のいずれかに陥る。
⑤ コストと価値の配分をどう設計するか
第三層の本質的な問題は、採算が自動的には合わない点にある。したがって、
- 排出者が負担するのか
- 事業者が吸収するのか
- 社会全体で負担するのか
というコスト配分の設計が不可避になる。
同時に、
- 再資源化による価値
- 環境価値
- 将来的資源価値
をどのように市場に組み込むかが問われる。ここを設計しなければ、制度はコスト負担だけを強制するものとなり、持続しない。
これら五つの論点は、それぞれ独立した問題のように見えながら、実際には一つの問いに収斂している。それはすなわち、廃棄物と資源のあいだにある領域を、どのようにして経済の中に位置付けるのかという問いである。特に許認可のあり方において、設備基準から機能基準への転換が実現できるかどうかは、この問いに対する答えを大きく左右する。なぜなら、それは単に審査の方法を変えるということではなく、何を価値とみなし、どのような主体を市場の担い手として認めるのかという、より根源的な選択に関わるからである。
このように見てくると、今後の廃掃法の方向は明確である。それは、廃棄物処理法としての枠組みを維持しつつ、その内部に資源循環のための新たな層を組み込み、段階的に「資源統治法」へと変化していくという方向である。
すなわち、廃掃法は単に廃棄物を適正に処理するための法律から、資源の流れを管理し、市場を成立させるための基盤法へとその役割を広げていくことになる。その過程においては、規制と市場の関係も再定義される。規制は市場を抑制するものではなく、市場が成立するための前提条件として位置付けられ、許認可は排除のための手段から、信頼と流通を支える装置へと変わる。
もっとも、この転換は自動的にうまくいくものではない。規制が過度に強ければ市場は閉じ、逆に緩すぎれば不信が広がる。また、第三層の扱いを誤れば、資源は市場にも制度にも乗らないまま滞留し、結果として環境負荷と経済損失の双方を生むことになる。したがって重要なのは、制度を固定的なものとしてではなく、段階的に調整されるものとして設計することである。
結局のところ、問われているのは、「廃棄物をどう処理するか」ではなく、「資源をどのように回す社会を設計するのか」という点にある。廃PV問題はその出発点に過ぎず、今後同様の問題は他の分野でも確実に現れてくる。そのとき廃掃法がどのような役割を果たすのかは、今回の制度設計とその運用の中で方向が定まっていくことになるであろう。
(原田幸明)
